日々雑録

40歳、書籍編集者の日記です。

男の子はバカじゃない

「男の子ってバカだよね」「男の子だからバカ」……男の子の粗暴なふるまいや思いがけない行動を見て多くの親たちが言う、このセリフが苦手だ。でも、まあ最初は(うちの子はバカじゃないけど)とか思いつつも、「そうかなあ?」「性別は関係ないんじゃない?」「自分も子どものときに変なことしなかった?」と答えつつスルーしてきた。

でも、ある日、帰宅してから子どもが悲しそうに「ああ、男の子じゃなくて女の子に生まれたかったな」「だって男の子はバカなんでしょ。大人が言うから」と言う。(ああ、見過ごしてきた私がいけなかった)と反省して、すぐさま言った。「男の子はバカじゃないよ」「男の子だからバカとか女の子だからバカとかあるわけない。それは差別」「だいたい、きみは割と賢いと思うよ」と。それ以降、子どもがいるところで言われたら「男の子はバカじゃないよ」と、はっきり返すことにしてる。

親のほうは面白半分の気軽な気持ちで言っていても、子どもは「バカ」なんて言われたら言葉通りに受け取って傷つく。だってあからさまに普通に悪口なんだもん、バカって。自分で言うぶんにはいいけど、大人だって他人に言われたらムカッとする。ましてや「女だから」「男だから」って言われたら腹が立つだろう。

それに一度言われるくらいならまだしも、いろんなところでたびたび言われれば誰だって嫌になる。私は「女の子だから」と繰り返し言われることの嫌さを、本当によく知っている。子どもの頃、親は私に「女の子らしさ」をまったく求めなかったけど、周囲の大人たちは好き放題に言った。屋根に上ったり粗暴なふるまいをすると「女の子のくせに」「男の子じゃないんだから」、よくしゃべったりおしゃれしたりすると「女の子だから」、ニコニコしていると「女の子は愛嬌」、進学すると「女の子は勉強できなくてもいい」など。常に私個人の性質は無視して性別でジャッジ。正直、小学生のときには(しつこいなあ)(性別なんて関係ない。大人なのにバカなのかな)って思っていたし、少し大きくなったら「性別は関係ないでしょ」と言っていた。

近年、さすがに「女の子はバカ」なんて言う人は、なかなかいない。それが「性差別」であり、怒られることだとわかっているからだ。それなのに男の子には「バカ」と言う。性差別に怒っているフェミっぽい女性も言ったりするから驚く。同じことなのに。

「男は泣くな」「男は泣きごとを言わず我慢しろ」「男は強くあれ」「男は稼げ」という価値観を刷り込まれて育った子どもがどうなるか。「女は家事をしろ」「女は母性で癒せ」「女はおしとやかにしろ」「女は男に従え」っていう傾向が出てくるんじゃないだろうか。自分が「らしさ」に縛られたら(抑圧されたら)、異性にも同じことを求めるかもしれない。コインの裏表のように。イライラして家族に当たる古いタイプの男性を見るたび、「男は泣きごとを言わず我慢しろ」と言われて育ったのかなって思うことがある。他人に八つ当たりをしたり、イライラを撒き散らすより、素直に弱音を吐けたほうがずっと恰好いいのに。

「男ってバカ」については、そこはかとなく(男の子って、いつまでもバカで子どもみたいでかわいい)みたいな価値観を感じることもあり、それでは男の子が「子どもっぽくていいんだ」って思ってしまうリスクもあるんじゃないかと思う。夫がいつまでも子どもみたいだ、日本の男は幼稚なのではないか……「ぼくの話を聞いて聞いてとうるさい」「褒めて褒めてとしつこい」「世話を焼いてほしがる」「親になった自覚がない」などと怒っている女性を本当によく見かけるのに、なんだか矛盾してはいないだろうか。

最後に、子どもの多くは大人が思いもかけないことをするのであって、それは男の子に限ったことじゃないだろう。忘れちゃった人もいるのかもしれないけど、私は小さいとき親に隠れてバケツを片手に町内を歩きまわりグミを山ほどとってお腹を壊すほど食べたこと、細い竹の棒を振り回していたら指にささって貫通したこと、高校生になっても後先考えずに仲間と夜の学校に忍び込んでプールに飛び込んでずぶ濡れになって帰ったことなどをよく覚えている。バカって言えばバカなんだけど、みんな多かれ少なかれバカだし、なんなら今もバカかもしれない。