日々雑録

40歳、書籍編集者の日記です。

恋と愛と目の狂い

19歳の春、生まれて初めてすごく好きな人ができた。17歳の、細身で、明らかにやんちゃな、少しだけ影のある、音楽とクラブが好きな、高校をドロップアウトし、その日暮らしをしている男の子だった。

その頃、私はまだ東京の暮らしに慣れておらず、DMRなどレコード屋さんの場所があまりわからず、今度案内してもらうということになって、その前に高円寺でご飯でも食べようと待ち合わせたのが最初。ちなみに待ち合わせ場所には、もうひとり男の子がいた。明らかにバンドやってる、ヒッピー風の子。「はじめまして」と言ったら「はじめましてだって~」と大笑いした彼は、地元の中学の同級生だった。彼は中学時代、めちゃくちゃヤンキーだったので、あまりの変わりように全然わからなかったのだ(その後、彼はアフリカに行くと家を引き払って以降、どうしたのかわからないんだけど、元気だろうか)。

以来、紆余曲折あってすぐに付き合うことになり、顔を見るだけでうっとりしたし、片時も離れたくないと思うほどに好きになった。一時は大学にも行かず、ほぼ一緒にいたくらい。あとで聞くと、地元にいた私の母は、その状況を知っていたけど(一生に一度は、そのくらい誰かを好きになって、恋愛にのめり込む時期もあっていい)と思って見守ってくれていたそうだ。

それでも、大学時代、私は長期休暇になると親許に長く帰省した。卒業後も絶対に閉鎖的な田舎には帰りたくなくて、東京で暮らすと決めていたからだ。働き出したら長くは帰れなくなる、親と過ごせる時間は有限だと知っていたから。帰省して、両親の許で子ども時代の最後を楽しみ、両親が喜ぶことを一緒にしたいと思っていた。

長期休暇を終えて東京に戻ると、彼はよく東京駅で待っていてくれていた。彼に会えることが嬉しくて嬉しくて顔をみると、なんか違う。全然違う。離れていたあいだに思い描いていた顔とまったく違うのだ。

 

――あれ、こんな子どもみたいな変な顔だったっけ? 

 

でも、数時間すると違和感はすべて消え去り、私の思っていた顔に戻る。

 

――ああ、かっこいい! そうそうこの顔!

 

もしかして半径1m以内にいるとかっこよく見える類の顔なのか。いや、顔のほうが変わっているんじゃない。私の目だ。私の目が恋によって狂っているんだ! こんなに違って見えるなんて、恋ってすごいな! と感動したのを、今でもはっきり覚えている。

あれから22年が経った。今も彼と一緒にいる。彼は単位制高校へ行って、私と同じ大学を卒業して、なりたかったカメラマンになった。私も好きな本を作ってる。結婚して子どもも生まれ、7歳になった。今では片時も離れたくないという気持ちは皆無になった。そして、少しばかり離れていても、目はおかしくならなくなった。若くなくなったから、恋の比率が減って愛になったからかもしれない。産後クライシスのときは、憎くて最悪に気持ち悪い顔に見えたこともあった。でも、また今はかっこよく見える。以前よりもずっと。